多くの心理実験では,何かの刺激を呈示したり,キーボードやマウスなどで行動的な反応を取得することが多い。そして,生理計測を行う場合,「刺激に対する生理的な反応を取得したい」ことがほとんどである。まれに,「行動的な反応をしている時の生理的な反応を取得したい」こともあるかもしれないが,いずれにしても,実験のイベントに対応したある区間の生理反応に関心があるという点では共通のものと考えることができる。ここでは,ある時間区間の生理計測データに関心がある場面に必要な環境設計の全体について記述する。
ここではコード類などは一度省略し,必要な機材本体についてのみ説明する。コードも含めた詳細な設計については別途それぞれの機能に焦点を当てた形でまとめる。
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大まかに必要なものとして,1. 行動実験用PC,2. BIOPAC機材,3. データ記録用PCの三つがある。大まかには,画像のように機材を接続する。
※もしPC間スペックに違いがある場合は,行動実験用PCに高スペックのものを使う。それによって,実験イベントの時間的正確さを高めることができる。データ記録用PCは普通のノートPC以上のスペックがあれば,特に高スペックでもデータには影響がないとのこと(BIOPACの代理店zeroCsevenさん情報)。
※特に実験者が想定している実験のイベントと生理計測データを対応させる必要がない場合(データを見て反応の区間が自明である場合,実験参加者のタイミングで何かしらの反応をしてもらうことに関心がある場合など)は,BIOPAC機材とデータ記録用PCのみで測定を行うことができる。
1. 行動実験用PC:刺激呈示や行動的反応の取得
基本的には,通常の心理実験と同様に実験プログラムを構築する。
一点特別な点として,「今刺激呈示が始まりました」「今刺激呈示が終わりました」といった実験イベントに対応する時間信号(イベントマークと呼ばれます)を発してくれるようにプログラムする必要がある。
イベントマークの実装方法は別途記事にするが,PsychoPy,EPRIME,MATLABの三つのうちのどれかを使う場合には,イベントマークの実装に必要なコードが既に用意されている。直感的に実験プログラムを構築したい場合には,PsychoPyがおすすめ。ただ,PsychoPyは結構重いので,特に動画などを使用する場合には高スペックのPCを使用し,刺激呈示の時間的正確さを極力高めたい。
イベントマークが必要な理由は,実験プログラムと生理計測データの時間を同期させるためである。
実験を開始するとき,実験プログラムは行動実験用PC上でスタートボタンを押したときを0として,実験の時間を測定し始める。一方で,BIOPAC機材の生理反応データは,専用ソフトウェアAcqknowledge上でスタートボタンを押した時を0として測定し始める。原理的には,実験プログラムと生理計測データの計測を同時にスタートすればよいということになるが,正確に時間を揃える上で,手動では限界がある。
そこで,刺激呈示を開始したタイミングなどに「今のタイミング記録しといて!」とBIOPACに伝える信号(イベントマーク)を送るように実験プログラムにお願いする。イベントマークを記録しておくことで,どの区間の生理反応データに着目して解析すればよいかが分かることになる。視覚的なイメージは,このページの下の画像を参照されたい。
とにかく,行動実験用PCからイベントマークを出す!!これが生理計測実験の重要なポイント!
2. BIOPAC機材:生理反応の記録
2021年12月現在,基本システムとして最も広く使用されているのはMP160という機材である。
この基本システムをベースとして,個々の機能をつかさどるアンプを繋げていくことで,必要なデータを取ることができる。
大まかな機材のイメージは画像の通りである。ここではコード類は省いて本体部分のみを記載する。
イベントマークの取得・記録には,デジタル・インターフェース が必要である。画像内で基本システムの間に挟んでいる白っぽい機械がそれである。
また,測定したいデータに合わせて必要なアンプを繋げる必要がある。画像内では右に繋がっているものがそれに対応する。例えば:
※最新情報についてはBIOPACのウェブサイトや,代理店のzeroCsevenさんにお問い合わせください。
3. データ記録用PC:専用ソフトウェアAcqknowledgeを使用して,データの表示・記録
BIOPAC機材の制御・データ表示・データ記録と,一部のデータ解析までを行う専用ソフトウェアのAcqknowledgeというものがある。ここでデータ記録用PCと呼んでいるものは,実質的にはAcqknowledge用PCということになる。
BIOPAC機材で測定された生理計測データ,行動実験用PCからBIOPAC機材に送られたイベントマークは,一緒になってAcqknowledgeに記録される。
画像がその例である。上の二段は筋電図の時系列データ(測定ポイントが二つあったのでデータも二系列),一番下の段はイベントマークになっている。
三段目のデータがある時点でカクッと下がり,またある時点でカクッと上がっているのがわかる(線が細くて見にくい)。このデータでは,刺激呈示中の筋電反応に関心があったため,イベントマークがカクッと下がったところは刺激の呈示開始,カクッと上がったところは刺激の呈示終了時点に対応するようにプログラムしている。そのため,解析の時は,凹んでいるところの区間の反応に着目すればよいということが分かる。
例えば二段目のデータでは,関心のある時間区間の後半あたりから波の振幅が大きくなっていることが分かる。刺激呈示前と刺激呈示中を比べると,この試行では,筋電図データの二段目の反応は大きくなっていたと言えそうである。
※何か気になる点があった場合や,「うちはこうしてます」的な情報があれば是非ぜひお教えください。
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